天皇陛下の80歳のお誕生日に先立って行われた記者とのご会見では、
五輪招致活動を例に、「皇室の政治利用」をめぐる質問が出された。
これに対し、陛下は次のようにお答えになった。
「日本国憲法には
『天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、
国政に関する権能を有しない』
と規定されています。
この条項を遵守することを念頭において、
私は天皇としての活動を律しています。
しかし、質問にあった五輪招致活動のように
、主旨がはっきりうたってあればともかく、
問題によっては、国政に関与するかどうか、
判断の難しい場合もあります。
そのような場合はできる限り客観的に、また法律的に、
考えられる立場にある宮内庁長官や参与の意見を聴くことにしています。
今度の場合、参与も宮内庁長官始め関係者も、
この問題が国政に関与するかどうか一生懸命考えてくれました。
今後とも憲法を遵守する立場に立って、
事に当たっていくつもりです」と。
まず「政治利用」一般については、
わざわざ憲法第4条の条文まで引用されて、
厳しく拒絶されるご意志を鮮明にされた。
問題の五輪招致活動についてはどうか。
あらかじめ、天皇陛下が政府の個別の措置に対して、
ご心中はいかにお考えであっても、具体的に批判されることは、
原則としてあり得ないことを、知っておかなくてはならない。
何故なら、それ自体が「国政」に関与することになりかねないからだ。
また、一般的には「国民統合の象徴」たる地位にも相応しくないだろう。
だから、平成4年の宮澤喜一政権時の中国ご訪問のような
明々白々白たる政治利用が行われた際も、
陛下は「私の立場は政府の決定に従って、最善を尽くすこと」
とお述べになるにとどめられた(但し、言外にかなり違和感を抱いて
おられることを窺わせる、ギリギリのご表現になっている)。
そのような制約内ながら、ご会見では政治利用へのご懸念を、
かなりはっきりと表明しておられる。
まず「国政に関与するのかどうか、判断の難しい場合」
には宮内庁長官らの「意見を聴くことにしています」と、
長官らへの全幅のご信頼を示された。その上で、
「主旨がはっきりうたってあ」る
「今度の場合」について、高円宮妃久子殿下のお出ましへの
圧力に抵抗し、「招致活動の一環と見られかねない懸念もあり、
苦渋の決断だった」と語っていた風岡長官らに、ことさら言及され、
「一生懸命考えてくれました」
と最大限のお犒いのお言葉を寄せておられる。
もし、長官の言動が陛下のご意向に背馳していたら、
こんなご表現になるはずがあるまい。
陛下が、この度のことに違和感を覚えておられるのは、明らかだ。
締めくくりに、
「今後とも憲法を遵守する立場に立って、
事に当たっていくつもりです」と仰有っておられるのは、
五輪招致活動に皇族を捲き込んで、何ら恥じる風もない政府のやり方に、
厳しく釘を刺されたお言葉だろう。
政権の経済政策(国政)の一環に位置付けられた五輪招致に、
皇族のお出ましを無理に願って、
それでも陛下が何のご懸念も抱かれないと考える者がもしいるなら、
余りにも傲慢かつ無慙と言う他ない。